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はじめのいっぽ

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日々雑感を記録します

日本の近現代史のほうは・・・

遅々として進まない。まだ10分の1である。
幕末から明治維新へと突入し、武士や庶民が激動の中、その生活がどのように変化し、いかに対応していったのかということに大いに興味がそそられる。
教科書(シリーズ:日本近現代史)も大事だが、より噛み砕いてその変遷を記してくれるのが小説である。
最近手にする本が、この明治初期を舞台にしたものが多くなりつつある。

そんな時期に、一冊の“新書”を手にした。(小説ではない)

“加賀百万石“という言い方がある。
加賀藩(藩主は前田氏)は外様大名だが、徳川将軍との姻戚関係が強く大名最大の102万石を領し御三家に順ずる待遇を受けたからである。

加賀藩は、大政奉還時は徳川慶喜を支持したが、幕府軍が鳥羽・伏見の戦いに敗北した後、方針を転換し新政府の北陸鎮撫軍に帰順した。
海防に関心が深く独自の海軍を有し、維新後は海軍に多くの人材を輩出したと言われる。

その加賀藩に「会計のプロ」がいた。
「猪山家」である。この猪山家では異常とも言えるほどその金銭の出入りを詳細に記録していた。
その記録が神田の古書店で著者によって発見された。
なぜ、これほどまでに詳細な記録が残っているのか、何の必要があっての記録か。興味は尽きない。

加賀藩士のことを調べるには、金沢市の私立玉川図書館に行くとよいといわれるが、収蔵されている資料の隙間を埋めるに十分な資料が見つかったのである。

猪山家は加賀藩の「御算用者(ごさんようもの)」であった。
御算用者とは、いってみれば「加賀百万石の算盤係」である。会計処理の専門家であり、経理のプロであった。
代々、猪山家は会計処理の実務をもって、明治維新まで五代にわたって前田家に仕えた。
このプロがつけた帳簿だから、私的な帳簿であっても、その完成度は高い。

この間、「加賀百万石の買い物係」となり江戸に詰めることになった。
猪山家のような下級武士にとって、役目について江戸詰めになるのは名誉なことでもあり出世の糸口にもなったが、一つ間違えば破産にもなりかねない危うさをはらんでいた。

武士社会は同僚、親戚付き合いを大事にした。 冠婚葬祭はもとより、決まりごと、習慣には何をおいても従わねばメンツが立たなかった時代である。
算盤係として藩主の側近に仕え、立場は上がるも、収入が必ずしもついてこない。
借金が嵩む。ヘタをすると夜逃げということにもなりかねないのである。

猪山家は、たびたび大役を仰せつかる。
「御住居向買手方御用ならびに御婚礼方御用主付」という仰々しい肩書きを頂く。
13代藩主前田斉泰が将軍家斉の娘溶姫(やすひめ)を妻に迎えることになり、猪山家が仰せつかった役目は、この世紀の婚礼の準備係であった。
婚儀にかかわる物品の購入を一手に引き受ける仕事であった。
文政10年(1827年)のことで、この時加賀藩邸に立てられた溶姫御殿の正門が、現在の東京大学の赤門である。
当時の加賀藩は財政が破綻しているのに、将軍家との縁組をせざるをえなくなり、結婚費用をどう工面しようか困窮の極みにあった。
しかし、将軍家との婚儀は、いかなる犠牲をはらってでも成功させなければならなかった。
ここに「御算用者」としての猪山家の苦労がしのばれる。
婚儀の後、姫君から解放されるだろうとの期待は脆くも崩れ、なんと姫君付の算盤役=「姫君様御勘定役」を仰せ付けられる。
姫君から「あがのうて参れ」(購う=あがなう。買って参れ。)といわれれば、櫛、簪、蒔絵の硯箱など賢覧豪華な品々を買い調えることになるのである。

著者によると、国というものは、その時代ごとに“金食い虫”的存在がある。
江戸時代では大奥であり、維新後の近代では海軍であったといわれる。
国の予算が湯水のように流れ出ていくのである。

猪山家は、その卓越した経理能力を買われて、江戸時代には大奥から来た溶姫の算盤役をまかせられ、近代になると、今度は海軍に配属されて、やはり算盤役を務めることになる。
以後、猪山家は新政府の大村益次郎の目に留まり兵部省にはいり、主計のトップとして海軍の経理を一手に引き受けた。

この猪山家の家計簿には、収入の金額はもちろん、買い物の内容もこまかく載っている。さらには借金の金額や借りた先や利率までもである。
・・・・・この借入先がおもしろい。かなり多岐にわたる・・・・・

それも天保13年(1842年)から明治12年(1879年)までの37年間も書き続けられている。(1年2ヶ月分が欠けている)
なにしろ饅頭一つ買っても記録した帳面が36年間分も残っていたのである。
明治維新という激動の時代をはさんで、武士(明治に入って、士族)の生活がどのように変わっていったのかという一端を覗くことができる。

磯田道史著 「武士の家計簿」~加賀藩御算用者の幕末維新~ 新潮新書
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by m-morio | 2010-12-19 15:59 | 井蛙のつぶやき | Comments(0)