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はじめのいっぽ

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日々雑感を記録します

“暗い”宿命のようなものに背中を押されて・・・

藤沢周平著「又蔵の火」に表題作を含めて5作品が収録されています。
これらの作品の主人公たちは、いずれも
なんともやるせない“暗い”宿命のようなものに背中を押されて生き、あるいは死ぬ。

貧乏は辛いもの。貧乏故に悪への道へ、蟻地獄のごとく待ち構えている極道の罠へずるずると転落していく。

藤沢作品にはこんな暗い色調のものが多い。

著者自身
「私の中に、書くことでしか表現できない暗い情念があって、作品は形こそ違え、いずれもその暗い情念が生み落としたものだからであろう。読む人に勇気や生きる知恵をあたえたり、快活で明るい世界をひらいてみせる小説が正のロマンだとすれば、ここに集めた小説は負のロマンというしかない。」
とあとがきに書いている。

木曽路を落日が灼(や)いている。
6月の荒々しい光は、御嶽(おんたけ)の黒い肩口を滑って、その前面にひしめく山々の頂きを斜めに掠(かす)め、谷をへだてて東の空にそびえる木曽駒ケ岳に突き刺さっていた。だが谷の底を這う街道には、すでに力ない反射光が落ちかかるだけで、繁りあう樹の葉、道に押し出した巨大な岩かげのあたりは、もう暮色が漂いはじめている。

という書き出しで始まる短編は、漆塗り職人から渡世人に身を落とした男の生き様を書いた小説です。

でも、じっくりと読み進むと、その根底に何ともいえない温かみ=人肌の温もりがあります。
この書き出しは、渡世人の末路を綴る内容がこれから展開するとは思いもよらないほど穏やかな夕暮れの情景を思い起こさせます。

(「又蔵の火」の「帰郷」文春文庫 直木賞受賞の「暗殺の年輪」に次ぐ二冊目の作品集。)
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by m-morio | 2008-01-31 15:52 | | Comments(0)